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わたしが一番きれいだったとき by 茨木のり子

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Published on Jul 28, 2007

~わたしが一番きれいだったとき~

わたしが一番きれいだったとき
街々はがらがら崩れていって
とんでもないところから
青空なんかが見えたりした

わたしが一番きれいだったとき
まわりの人達が沢山死んだ
工場で 海で 名もない島で
わたしはおしゃれのきっかけを 落としてしまった

わたしが一番きれいだったとき
だれもやさしい贈物を 捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか 知らなくて
きれいな眼差だけを残し 皆発っていった

わたしが一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光った

わたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた
そんな馬鹿なことって あるものか
ブラウスの腕をまくり 卑屈な町をのし歩いた

わたしが一番きれいだったとき
ラジオからはジャズが溢れた
禁煙を破ったときのように くらくらしながら
わたしは異国の甘い音楽を むさぼった

わたしが一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしはめっぽうさびしかった

だから決めた
できれば長生きすることに
年とってから 凄く美しい絵を描いた
フランスの  ルオー爺さんのように  ね

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