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友部正人 乾杯

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Published on May 30, 2015


いまだにクリスマスのような新宿の夜
一日中誰かさんの小便の音でもきかされてるようなやりきれない毎日
北風は狼のしっぽをはやし 
ああそれそれってぼくのあごをえぐる
誰かが気まぐれにこうもり傘を開いたように
夜は突然やって来て
君はスカートをまくったりくつ下をずらしたり

おお せつなやポッポー
500円分の切符をくだせえ

電気屋の前に30人ぐらいの人だかり
割り込んでぼくもその中に
「連合赤軍5人逮捕 泰子さんは無事救出されました」
金メダルでもとったかのようなアナウンサー
かわいそうにと誰かが言い
殺してしまえとまた誰か
やり場のなかったヒューマニズムが今やっと電気屋の店先で花開く
いっぱい飲もうかと思っていつものやき鳥屋に
するとそこでもまた店の人たち
ニュースに気を取られて注文も取りにこない
お人好しの酔っぱらいこういう時に限ってしらふ
ついさっきは駅で腹を押さえて倒れていた労務者にはさわろうともしなかったくせに
泰子さんにだけはさわりたいらしい

ニュースが長かった2月28日をしめくくろうとしている
死んだ警官が気の毒です
犯人は人間じゃありませんって
でもぼく思うんだやつら
ニュース解説者のように情にもろく 
やたら情にもろくなくてよかったって
どうして言えるんだい
やつらが狂暴だって
新聞はうすぎたない涙を高く積み上げ
今や正義の立て役者
見だしだけでもってる週刊誌 
もっとでっかい活字はないものかと頭をかかえてる
整列して機動隊
胸に花をかざりワイセツな賛美歌を口ずさんでいる
裁判官は両手を椅子にまたがせ
今夜も法律の避妊手術
巻き返しをねらう評論家たち
明日の朝が勝負だとどこもかしこも電話は鳴りっぱなし
結局その日の終わりにとりのこされたのは
朝から晩までポカーンと口を開けてテレビを見ていたぼくぐらいのもの

乾杯 取り残されたぼくに 
乾杯 忘れてしまうしかないその日の終わりに
乾杯 身もと引き受け人のないぼくの悲しみに 
乾杯 今度逢った時にはもっと狂暴でありますように

夜が深みにはまりこみ罵声だけが生き延びている
おでことおでここづき合ってのんべえさんたち 
にぎやかに議論に花を咲かせている
ぼくはひとりすまし顔
コップに映ったその顔が
まるで仕事にでも来たみたいなんでなんだかがっかりしてしまう

誰かさんが誰かさんの鼻を切り落とす 
鼻は床の上でハナシイと言って泣く
誰かさんが誰かさんの耳を切り落とす 
耳はテーブルの上でミミシイと言って泣く
誰かさんが誰かさんの口を切り落とす 
口は他人のクツの上でクチオシイと言って泣く
ぼくは戸を横にあけて表に出たんだ
するとそこには耳も鼻も口もないきれいな人間たちが
右手にはし 左手に茶わんを持って 
新宿駅に向かって行進しているのを見た

おお せつなやポッポー
500円分の切符をくだせえ

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