石川慶×佐々木友輔 映像詩『時計』(原作:萩原朔太郎)01

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Uploaded by on May 4, 2010

音楽:田中文久/出演:石川慶(舞踏ー天空揺籃 )/映像制作:佐々木友輔/原作:萩原朔太郎『時計』『夢にみる空家の庭の秘密』 /26分/2009年


『時計』

古いさびしい空家の中で
椅子が茫然として居るではないか。
その上に腰をかけて
編物をしてゐる娘もなく
暖炉に坐る黒猫の姿も見えない
白いがらんどうの家中で
私は物悲しい夢を見ながら
古風な柱時計のほどけて行く
錆びたぜんまいの響を聴いた。
じぼ・あん・じゃん! じぼ・あん・じゃん!

古いさびしい空家の中で
昔の恋人の写真を見てゐた。
どこにも思い出す記憶がなく
洋燈の黄色い光の影で
かなしい情熱だけが漂つてゐた。
私は椅子の上にまどろみながら
遠い人気のない廊下の向うを
幽霊のやうにほごれてくる
柱時計の錆びついた響を聴いた。
じぼ・あん・じゃん! じぼ・あん・じゃん!


『夢にみる空家の庭の秘密』

その空家の庭に生えこむものは松の木の類
びわの木 桃の木 まきの木 さざんか さくらの類
さかんな樹木 あたりにひろがる樹木の枝
またそのむらがる枝の葉かげに ぞくぞくと繁茂するところの植物
およそ しだ わらび ぜんまい もうせんごけの類
地べたいちめんに重なりあって這ひまはる
それら青いものの生命
それら青いもののさかんな生活
その空家の庭はいつも植物の日影になつて薄暗い
ただかすかにながれるものは一筋の小川のみづ 夜も昼もさよさよと悲しくひくくながれる水の音
またじめじめとした垣根のあたり
なめくじ へび かへる とかげ類のぬたぬたとした気味わるいすがたをみる。
さうしてこの幽邃な世界のうへに
夜は青じろい月の光がてらしてゐる
月の光は前栽の植込からしつとりとながれこむ。
あはれにしめやかな この深夜のふけてゆく思ひに心をかたむけ
私の心は垣根にもたれて横笛を吹きすさぶ
ああ このいろいろのもののかくされた秘密の生活
かぎりなく美しい影と 不思議なすがたの重なりあふところの世界
月光の中にうかびいづる羊歯 わらび 松の木の枝
なめくぢ へび とかげ類の不気味な生活
ああ わたしの夢によくみる このひと住まぬ空家の庭の秘密と
いつもその謎のとけやらぬおもむき深き幽邃のなつかしさよ。

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