大西研究室では、触覚のうちの"硬い"や"柔らかい"などの力覚と呼ばれる感覚をロボットを使用して伝達・保存・編集・再生する研究を行っています。
視覚と聴覚に関する情報,つまり音声と映像に対しては伝達、保存、編集、そして再生ということが日常的に行われていますが、触覚に関する情報については未だに実用化されていません。 力覚に限らず触覚を扱うことが難しいのは、触覚という感覚が物理的な双方向性の上に成り立っているからです。視覚や聴覚は「見られているもの」や「音を発生しているもの」に直接的に作用しないのに対して、触覚は「触れられているもの」と「触れているもの」が直接的に作用しあいます。
Q「聴覚や視覚は記録ができます。これは当たり前のようですが、実は記録あるいはメモリと呼ばれる物は時間を遅らせて再現できるということに他ならないわけです。ところが触覚とういのは作用・反作用の法則に左右されるので、触った瞬間に感じなければならない。つまり、作用した瞬間に反作用力を感じなければならず、時間の遅れが許されないのです。」
この研究は、ロボットの触覚に応用することで、遠隔手術や人間の手では不可能な微細作業などに適用できます。
Q「ロボットを人間の支援に使うためには触覚は欠かせません。しかし,現在のロボットは触覚情報を自ら持っていないので、動きが非常にぎこちなく,人間の支援には使えません。具体的なものとしては、外科手術や介護、産業分野の組み立てや段取りといった作業です。これは現在人手を使っていますが、なぜ人手が必要かというと、ロボットにない触覚・力覚が人間にはあって、それが作業を可能にしているからです。」
大西研究室では、離れた場所から高速通信で力覚情報を伝達し、再現する実験を行っています。
これは、1台のロボットを人が操作し,その動きに追従するもう1台のロボットを物体と接触させ,実際の力覚を2台のロボットの間で相互に伝達するというものです。この2台のロボットを制御するための仕組みをバイラテラル制御と呼び、大西研究室ではその独創的な方法を開発してきました。またこの力覚を保存したり、編集したり,再生したりする技術の研究も進めています。これらの技術を実世界ハプティクスと呼んでいます。
Q「このハプティクス、特に実世界を伝えるハプティクスというのは、大変難しい技術です。というのは、いくつかの技術が複合されてできているからです。それはロボティクス技術、通信技術、制御技術です。これら3つの技術がどれも非常に高いレベルで協同していないと、このようなことはできません。そういった複合された技術を研究するためにはたくさんの大学院生の協力が必要です。その大学院生というのは、私の方からテーマを与えて研究を進めているのではありません。自発的な提案をいつも歓迎しています。このテレハプティクスあるいは実世界ハプティクスというのは、ほとんど学生の提案から始まった物です。その提案もひとつやふたつではなく、30、40というたくさんの提案がなされています。その中で学生自身が技術を磨いていって、ひとつの物として結実していくというプロセスがうまく働いていると思います。これは慶応大学の『天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず』というモットーにのっとっていると思います。」
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