曲名『天城越え』
鶴ヶ丘社頭兜改めの場
将軍足利尊氏は鶴ヶ岡八幡宮を造営したのを機に、尊氏が滅ぼした新田義貞がつけていた後醍醐天皇から拝領した兜を、八幡宮の宝蔵へ納めるよう弟・足利直義に命じる。ここ八幡宮の社頭には直義をはじめ、足利家の執事・高師直、ご馳走役の桃井若狭之助、同じく塩冶判官高定が集まっている。
高師直は義貞の兜を奉納することに反対するが、若狭之助は兜を納めることで新田の残党を鎮めようという尊氏の計略だとたしなめ師直の怒りをかう。義直はたくさんの兜の中から義貞の兜を見つけ出すために、以前御所に勤めていた塩冶の妻・顔世御前を呼び出し、兜を選ばせる。
義貞が兜の内側に蘭奢待の香りをたきしめていたことを知っていた顔世はすぐにその兜を見つけだし、皆は討ち揃って兜を奉納するため神社に入る。
後に残ったのは顔世と、以前から顔世に横恋慕していた高師直。師直は和歌の添削をしてやろうと近づき、恋文を手渡そうとするが、困った顔世はそっと投げ返す。なおも師直が夫の仕事が上手く行くようにするのは顔世の心一つだとしつこく言い寄っているところへ、若狭之助が戻ってきてこの有様を見、顔世に退出させる。
いいところを邪魔された師直はますます若狭之助に恨みをいだき、嫌味を言い募る。我慢できなくなった若狭之助が思わず刀を抜こうとするところへ義直が戻る「還御」の声が聞こえ、すんでのところで若狭之助は刃傷を思いとどまる。
二段目
主人・若狭之助から師直を切るつもりだと打ち明けられた桃井家家臣の加古川本蔵は、一旦若狭助を安心させて寝床へ行かせると、本蔵は急いでどこかへと馬を走らせた。
三段目
足利館門前進物の場
主人・若狭之助から師直を切るつもりだと打ち明けられた桃井家家臣の加古川本蔵は、主人に内緒で急遽師直に賄賂を持参する。驚くほどたくさんの金品に師直の機嫌はよくなり、家来の鷺坂伴内は手のひらをかえしたように愛想よく、御殿の中へと本蔵を誘う。
同 松の間刃傷の場
自分の家来が師直に賄賂を贈ったとは思いもよらない若狭之助は、今日こそ師直を切ろうと覚悟を決めて松の廊下へとやってくる。ところが師直が平身低頭してあやまるので、怒りをこらえつつ若狭之助は奥へと入っていく。
なんとか若狭之助の怒りはそらせたものの、屈辱をしいられた師直は怒りのやり場がない。そこへ遅れて現れた塩冶判官に小言を言い始める。おりしも顔世から師直への文が届けられるが、それは顔世が師直を袖にする意味をこめた古い歌だった。
師直はてっきり顔世が夫にうちあけたのだろうと腹をたて、塩冶判官をねちねちといびり始める。師直の態度を初めはうけながしていた判官だったが、ついに刀で師直の額に切りつける。だがちょうど近くにいた桃井の家来・加古川本蔵に抱きとめられ、師直に止めをさすことはできない。
四段目
扇ヶ谷塩冶判官切腹の場
殿中で刃傷におよんだ判官は扇ヶ谷の館で、幕府からの上使に切腹の沙汰を言い渡される。心から信頼する城代家老・大星由良之助の到着を待ち望んでいた判官だったが、上使にせかされついに九寸五分を腹につきたてる。
その時、国許から由良之助が到着。判官は苦しい息の下で、腹を切った九寸五分を形見として由良之助に与え、無言の内に敵を討ってくれるよう由良之助に頼み、由良之助も主君の遺言を受けとめる。
同 表門城明渡しの場
その夜、判官の遺体を光明寺へ送り届けてきた力弥をはじめとするおおぜいの侍たちが、すでに館が明け渡されたと知って門前に押しかける。由良之助は皆が従わないのなら自分は門前で腹を切ると言う。館の中からは上使・薬師寺らのあざ笑う声が聞こえるが、なんとか家臣たちをなだめ由良之助は城をあとにする。
ひとり判官の形見の九寸五分をふところから取り出した由良之助は、そこについた血をなめ主君の無念を思い、改めて仇討の決意を固めつつ去っていく
足利直義= 澤村藤十郎(2代目)
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