俳優岩下浩氏渾身の朗読と佐藤弘弥撮影の平泉の写真のコラボ。
<朗読台本>
藤原清衡、かしこまって申し上げます。
私は、ここに平和のために中尊寺を建立し、戦の犠牲となった人々を供養したいと思っております。
◎大堂のこと。
左右二十二間の檜皮葺のお堂の中を建て、この中に高さ丈六に及ぶ皆金色の釈迦三尊像を安置し、周囲を脇士が固めております。
◎三重の塔のこと。
三重の塔を三基立て、この中に、釋迦牟尼如来三尊、薬師如来三尊、彌勒三尊をそれぞれに安置いたしました。
◎経蔵のこと。
二階瓦葺の経蔵に皆金色の文殊師利尊像を一体安置し、「金銀泥一切経(きんぎんでいいっさいきょう)」を五千巻余り納めました。
この経典は、紺の紙に金字を一行、次の行には銀字で一行という具合に光が交わるように書写したものです。これを漆の匣(さや)で包み、螺鈿(らでん)を刻んで、これを題目に鏤(ちりば)めました。
文殊師利尊は、智慧を生ずる母の異名です。これを「経蔵」の主(あるじ)といたしました。智力を持って一切経蔵を守るためです。
◎二階建ての鐘樓のこと。
この鐘の一音が及ぶ所は、世界のあらゆる所に平等に響き渡ります。そして生きるものすべてのものの苦を抜き、これに楽を与えます。世界があまねく平等の世界になることを心より祈願いたします。
古来より奥州の地では、官軍の兵に限らず、奥州の兵によらず、戦によって数多の者の命が失われました。それだけではありません。毛を持つ獣、羽ばたく鳥、鱗を持つ魚たちも、有無を言わさず、数限りなく抹殺されて来ました。
命あるものたちの御霊は、今あの世に消え去り、骨も朽ち、それでも奥州の土塊(つちくれ)となっております。私はこの鐘を打ち鳴らす度に、罪もなく命を奪われしものたちの御霊を慰め、極楽浄土に導きたいと願っております。
◎大池のこと。
大門は三つ建て、築垣(ちくがき)は三面に施し、二十一間の反橋(そりばし)を渡し、十間の斜橋(しゃばし)を架け、池には龍頭鷁首(りゅうとうげきす)の船を二隻浮かべ、楽器や太鼓を持つ舞装束の楽人三十八人をこれにつけました。
池を掘るに当たっては、築山をして地形を変え、水を引き入れました。草木と樹林を宮殿楼閣の中に配置し、この中で世の人の楽しみとする歌舞を催し、人々のの仏への帰依を讃えようと思います。
そのようにすれば、この地を一目見た者は、たとえ国境を隔てた者たちでも、『この世にも極楽はある』と実感するでありましょう。
◎千僧供養のこと。
千人の僧侶が、千部の法華経を読経いたします。法華経については、私は、常にこの教えを守り、多年に渡り僧侶に書写させてきました。本日、これを一日に転読させ、一人で一部、千人で千部を唱和し尽くしたいと思います。たとえ蚊の羽音でも、これが集まった時には、雷鳴を成すと申します。千僧の祈り声は、きっと天に達するでありましょう。
◎五百三十人の題名僧のこと。
私は長年をかけて、一切経を書写し、これを経蔵に安置いたしました。その数は五千巻余りに達します。これを530人の僧が、一人10巻づつ、次々に軸の紐を解いて、手に持つ捧に伸ばし、題名を揚げます。これにより、この地から一切の煩いは、北上川に立つ朝霧のように一瞬にして消えることでありましょう。
以上のような供養をする私の本意は、ただただ平和の世が続くことを願ってのことです。(下へ つづく)
(現代語訳は佐藤弘弥)
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